リュウジンオオムカデ -琉神大百足-

ヤンバルオオムカデ(仮称)が新種として記載されました。

2021年7月1日より種の保存法に基づく「緊急指定種」に。

緊急指定種に指定されると、個体の捕獲・殺傷、譲渡し、輸出入、陳列などが原則禁止となります。

以下の情報はZootaxaのサイトより論文を購入して、書かれている情報をまとめたものです。


学名: Scolopendra alcyona

和名:琉神大百足 リュウジンオオムカデ

英名:Halcyon giant centipede


あまりにも美しい名前です。

種小名の読み方はアルキオーナ。


由来はアルキュオネというギリシャ神話に登場する

ゼウスによってカワセミに変えられた女性です。

カワセミは翡翠の色、水陸両方に関係していることから、

本種の比喩として引用されています。


そして和名の琉神大百足。

琉球の神というだけでなく、「龍と百足の伝承」から引用された名前でしょうか。

概要としては、龍の耳の中に百足が入ってしまい、困っていたところ

龍の耳に米を入れてニワトリを誘い出し、百足を一緒に食べさせて取り除くお話です。


またムカデはミンサー織、百足旗など沖縄の文化と深く結びついています。

英名はカワセミを指しています。


実に143年ぶりの国産オオムカデ記載となります。

本種は分子系統解析と、従来の形態学的精査を用いて独立した種であることが判明し、

Scolopendra alcyonaと名付けられています。

渓流に棲息し、泳ぐ姿なども度々目撃されてきました。


現在までに日本と台湾には以下5種のScolopendra属が知られております。

Scolopendra morsitans タイワンオオオムカデ

Scolopendra subspinipes オオムカデ

Scolopendra mutilans トビズムカデ

Scolopendra japonica アオズムカデ

Scolopendra multidens アカズムカデ



また、リュウジンオオムカデに類似している種として、以下4種が挙げられています。

Scolopendra japonica アオズムカデ

Scolopendra multidens アカズムカデ


Scolopendra dawydoffi


Scolopendra cingulata


上記4種に共通しているのは第20歩肢の跗節に蹴爪がないことです。

上記は共通祖先をもつとされています。


さらに、水陸の生活圏を持つムカデとして

Scolopendra cataracta と

Scolopendra paradoxa が挙げられています。


系統樹を確認すると、距離が離れており、別々の系統群に所属することから

独立して半水棲の形質を獲得したものと考えられます。


半水棲のオオムカデ属の記載は世界で3例目となります。

同所的に存在するアオズムカデとの差異は

リュウジンオオムカデにはオスの生殖器に突起がなく、

アオズムカデにはオスの生殖器に突起がある事で判別できます。


経験数を踏まないと瞬時にアオズとリュウジンを見分けるのは難しいと言えます。

生殖器は万人が確認できるわけではありませんし、

paramedian suturesもマクロ撮影やルーペがなければ明確に判別が出来ません。


簡易的ですが腹部の色が暗い方がリュウジンオオムカデ、

という判別方法があると個人的には考えています。


分布は 琉球列島(沖縄本島,久米島)および台湾。

S. alcyona sp.nov. の新種記載に使われた標本は、沖縄本島、久米島、台湾で採集されたものですが、

渡嘉敷島、石垣島、西表島にも分布しているとされています。


棲息地環境は森の中の沢であることが論文でも記されています。


渡嘉敷島個体

石垣島個体


台湾個体


森林の中の渓流という場所も相まって、神秘的な雰囲気を醸し出すリュウジンオオムカデ…。


日本人初のオオムカデ属記載、快挙です。

それがこのような美しい種であることを嬉しく思います。


国産の大型のムカデ記載は本種で、最後になるのかも知れません。

少し寂しくはありますが、まだ他の島にも同様の種が潜んでいる可能性は大いにあるでしょう。

今後も楽しみな種類です!


なお、飼育難易度は非常に高く、一般的な飼育設備では飼育は不可能です。

低温、高湿度環境が必要で、特に本州でそれを実現することは大変難しいと考えます。


最低でもワインセラーと空調、そして短辺が全長の2倍以上の広い底面積が必要となります。

国際的にみても非常に貴重な種です。繁殖目的以外の消費的飼育は避けるべきでしょう。


沖縄県の大宜味村以北の沢でしたら、

ほとんどどこにでも出現しますので、個人的には飼育よりも観察する方がお勧めです。


出典1

A new amphibious species of the genus Scolopendra Linnaeus, 1758 (Scolopendromorpha, Scolopendridae) from the Ryukyu Archipelago and Taiwan

SHO TSUKAMOTO, SHIMPEI F. HIRUTA, KATSUYUKI EGUCHI, JHIH-RONG LIAO, SATOSHI SHIMANO

17ドル≒2,000円(2021.4.21現在)で購読可能です。


出典2

NPO法人沖縄伝承話資料センター事務局

・龍と百足 粟国村東 豊村幸徳氏(1906年8月5日生) 1981年3月28日談

・医者と龍 大底米氏(1904年11月15日生)1976年8月2日談 


出典3


細かな形質などを観察する際に便利な図鑑です。

各部位の超拡大写真など、同定の助けになります。

是非ご覧下さい。

追記:プレスリリースが出ました!


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